酢飯屋 岡田の「はばのり」徹底紹介!
*** ハバノリの定番的食べ方はこちら ***
こんな小さく細かったハバノリが
こんなに立派に幅広く大きくなりました。
真核生物
ディアフォレティケス
SARスーパーグループ
ストラメノパイル
不等毛植物門
褐藻綱
カヤモノリ目
カヤモノリ科
セイヨウハバノリ属
ハバノリ
日本のほぼ全域の、外洋に面した海岸の潮間帯によく見られる海藻とはいえ、
見てすぐに『ハバノリだ!』とわかる方は少ないのではないでしょうか。
以前はフクロノリ属だったのに!
とか知らないですよね^^; 海藻業界も刻々と種類が細分化されて
ちょっと前の資料を見ても、現在と異なることが多々あります。
地域にもよりますが、
秋に盤状体から葉状体が立ち上がり、冬から春にかけて大きく収穫サイズまで育ちます。
長さ15〜25cm、幅1.5〜5cmほどの緑色を帯びた黄褐色から赤褐色の
へら型の海藻になります。
収穫時期は12月~2月ぐらいです。
藻体は膜質で笹の葉型の葉状をして、基部から数本が伸びています。
春にはほとんどの個体が成熟し、遊走子を放出し盤状体へと体を変え、夏を越します。
そして秋になると、盤状体から葉状体が出てきます。
中性遊走子を放出する無性のサブサイクルもありますが、ややこしいので割愛します。
最終的には外洋に流されて一生を終える一年生の海藻です。
波当たりの激しい岩礁に生えていて、潮間帯の岩礁上に冬季群落として繁茂します。
冬から春にかけて採集し、2cmくらいに刻んで簀の子に並べ、
天日で乾燥したものが「はば」または「はんば」と呼ばれる食品となります。
千葉県、三重県、徳島県を主体にいくつかの地域では、
板ノリのように整形して乾燥したものを炙って食べる文化があります。
『幅がきく』、『幅を利かす』という縁起物として、千葉県の一部では特に重宝されています。
妻のお父様が千葉県のいすみ市ご出身なので、
このハバノリを食べた時は、何ともいえないにこやかな表情でその味と香りを楽しまれていました。
昔よく食べたのと一緒だと。
千葉県東部の特に山武郡あたりでは、お正月のお雑煮に欠かせない食材です。
暮れのうちに作っておいた出汁を沸騰させて醤油で味付けし焼いた切り餅を入れて雑煮を作り、
焼いて揉んで細かく砕いたハバノリをたっぷりかけて食べる文化が残っています。
ハバノリだけでなく鰹節の削り節を混ぜることが多く、
昨今はハバノリが高価であるため青海苔の一種を混ぜることもあります。
その他、ご飯にかけて、少し醤油をかけて食べたり、おにぎりやお餅にで食べる方もいます。
千葉県だけでなく、その他地域でも正月などに縁起物として供されます。
ちなみに釣り人にとっては、ブダイ釣りのエサとして重宝されています。
香味は、素干しわかめを初めて嗅いだ時のあの感覚。
古くなったアサクサノリ、スリランカ紅茶の年代もの、昆布、干し梅などを連想させる香りに磯をプラスしたような。独特の苦みとえぐみがあるので、好き嫌いが分かれそうですが、それでいいのだと思います。
本来は海辺の村の方々が、冬から春の大潮のときに採集し、
アサクサノリの代用品として自家用に生産・消費されたものだったそうです。
自家製で作られたものは、でこぼこで隙間も多く、いかにも田舎っぽい食べ物とされていましたが、現在はその素朴さが自然で良く思われる時代です。
生産量も少なく、大部分が地元の消費で、流通も採取時期以外は少ないことなどから
大判海苔1枚が数百円から千円以上の高級食材として流通しています。
神奈川県西部の特に湯河原町や真鶴町では、
2月頃の寒い時期に町内の各店先やイベント会場などで販売されています。
やはり高価な食材にはなっていますが、貴重品ですので真っ当です。
主に火でよく炙って緑色に変色させた後、ご飯の上に揉んで細かく砕き
鰹節と醤油をかけて食べられたり味噌汁の具材などにも使われたりしています。
三重県尾鷲市でも
白ごはんに炙ったはばのりを砕いて醤油をかけて食べるのが定番となっております。
とにかく、海藻としては文化圏が非常に狭いものなので
この海藻の可能性はもっともっと試して、広げていくべき品種に思います。
わかりやすく美味しい海苔類とは異なるので、
ある程度の調理経験や味覚年齢が高い方でないと
ハバノリをいなすのは容易ではないと思います。
乾燥のハバノリは、基本的には焼いてから食べます。
【焼きハバノリ】
※200度のトースターで20秒ほど、鮮やかな緑色に変わるのが目安です。
フライパンで空炒りでもOK。
焼いたハバノリは、指先で簡単にパラパラと細かくすることができます。
【乾燥ハバノリと焼きハバノリの比較写真】
左が乾燥ハバノリ
右がそれを焼いたもの
色も香りも食感も変化します。
こちらは、近縁種の
ハバモドキ目カヤモノリ科フクロノリ属セイヨウハバノリ(Petalonia fascia)
体は細長くて薄いです。
潮間帯下部の岩礁上に生じます。
これが「ハバノリ」として販売されている場合もあります。
見分けが難しいですが、体の断面を顕微鏡で見ると髄層に糸状細胞があるので区別できます。
他にも
ウイキョウモ目
ハバモドキ科の
ハバモドキという似た海藻もあります。
【焼きはばのりのお雑煮】
ハバノリ特有の香りと、トロりとするのにシャキッともする食感です。
【はばのりとバターと蒸し牡蠣】
はばのり特有の香りが牡蠣バターに良く合います。
しっかり絡めて旨味の相乗効果。
【海藻と牡蠣のお好み焼き】
乾燥のすじあおのりと
焼いたはばのり
あつばあおさ
一緒に食べるから美味しい海藻という世界もあるんです。
昔から今も、海藻と海藻をブレンドして作られてきたブレンド海苔というジャンルがあります。
すじあおのりとはばのりという
知る人ぞ知る二つの貴重なまったく異なる特徴的な海苔を混ぜることで
鼻腔と味覚をくすぶられる美味しさが誕生します。
それだけではありません。
ご存知、旨味の塊食材である牡蠣、
そして生地に、もっちりと旨苦い
あつばあおさをメインに使用することで、
食材それぞれの旨味を際立たせることができます。
薄く油をひいたフライパンに牡蠣を並べて
その上からあつばあおさとキャベツがメインのお好み焼き生地を流しかけます。
牡蠣にしっかりと焼き目が付いたら、ひっくり返し
焼いたはばのりと乾燥すじあおのりをたっぷりと盛り付けて完成です。
お気づきになりましたか?
調味料も、スパイスもいらない。
それぞれの海藻が、それぞれの役割を果たして
バランスを整えてくれるのです。
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牡蠣って
そのまま食べても美味しいけれど、
海藻と食べたほうがもっと美味しくなる。
【牡蠣 × 海藻】のススメ
例えば、
ただグリルしただけで美味しい牡蠣は
ふかふかの海藻ベッドに寝かせて
包み込むようにして食べるだけで
Awesome Yummy Club です。
はばのりは、高価なものだけど
ちまちま食べるよりは、ドサッと食べた方が圧倒的に美味しいです。
すじあおのりはは、少しだけ食べても、ドサっと食べても美味しいです。
【焼きはばのりの鶏塩ラーメン】
こだわりのラーメン屋さんには、ぜひ使って一品作っていただきたいなー。
汁に浸ってからの食感がはばのりならではで
麺と程よく絡むのも魅力的。
【焼きはばのりとちりめんご飯】
焼いたはばのりと合わせて、ごはんにかけて食べるなら
釜揚げしらすも美味しいはずなのに、ちりめんのほうがよく合います。
なんなんでしょうね。
これだから食は面白いです。
岡田大介(おかだ だいすけ)
1979年生まれ 寿司作家・寿司職人
18歳で食の世界へ、寿司の道を修行し24歳で寿司職人として独立。
2008年、東京都中央区にて1日1組の完全紹介制の寿司屋「酢飯屋(すめしや)」を開業。
食通達の間で話題となる。
その後浅草橋、2016年より文京区江戸川橋に移転。
フランスの寿司漫画『L’Art du Sushi』のモデルや、
新国立新美術館での、器や食のキュレーションなど、
寿司職人という職業の可能性を日々広げている。
著書に『おすしやさんにいらっしゃい!』(発行:岩崎書店)『季節のおうち寿司』(発行:PHP研究所)